すべての心友へ捧げるアロマ
今日も夜空を見上げると星が無数に輝いて見える。
「しほさん、今日もありがと」心の中で呟いた。
スポーツインストラクターをしていた時、心が透き通るような、清らかな女性に出会った。
彼女は当時、50才をすぎていたが、見た目には40才ぐらいに見えた。
ボーイッシュで、バランスのとれた身体つきの方だった。
しかし、出会った時はすでに幾許もない余命だったらしい。
彼女は子供達へ音楽の楽しさを伝える仕事をされていた。
音楽好きな私はすぐ意気投合して仲良くなった。
一般的にプライベートでお客様と交流するのは極力避けていたのだけれど、側でみていると日に日に彼女の変化が異様に映った。
おそらく出会ってから半年が過ぎようとした頃、インストラクター仲間達と連れだって彼女主催のコンサートへ出かけた。
私が彼女をみたのはそれが最後だったかもしれない。
ほとんど手に力が入らない感覚の中で、鍵盤を弾いていたと後から聞かされ驚いた。
ステージ上の彼女は終始堂々としていた。
確か、それから一年を待たずして、ご家族から彼女の訃報を知らされたと思う。
お別れの当日、職場の仲間は最後のお別れにと私を快く送り出してくれた。
私は彼女に置き去りにされたような寂しさで心がいっぱいになった。
涙で解消されることはなかった。
彼女を思い出すたび、胸の中に重たい何かが現れ、心の中をかき乱した。
あまりに心が乱されるので、不都合と判断した私の頭は彼女との思い出に鍵をかけたのだろう。
私の前から彼女が去ってから、仕事は忙しさを極めていた。
担当するお客様のお悩みも多岐にわたり、何か画期的にアプローチできるものがほしい!
毎日の業務に追われながら私は憔悴していった。
もう限界だったと思う。
そしてたどり着いたのがアロマだった。
もし彼女がいたなら、アロマを一番最初にお届けした人だっただろう。
私も彼女と同じ50才を過ぎたアロマの香りは人の奥にある気持ちを、いかようにも引き出すのが得意らしい。
たぶん香りの成分が幾重にも合わさり、心の化学変化を起こすことも要因にあるのだろう。
私はアロマの恵みを、お客様の心へぴったり寄り添う香りへ混ぜ合わしてお届けする。
たったそれだけなのに、お客様の身体に触れている私の手にメッセージが返ってくる。
「ありがとうね」